市丸に何か言われる以前に、日番谷は自分に選択権が無い事を重々承知していた。
誰かの掌の中に居ると自覚するというのは、あまり気分の良いものではない。
元々ずっと日番谷は彼の掌で転がされているわけだが、何時か解放されてやると小さく心に誓てから、日番谷は態とらしく舌打ちをして見せた。
ソレは決してゲームからの辞退を示すものではなく、つまりそれはイコールでゲームの開始と続行を示すものとなる。
市丸の唇が、日番谷にわかるようにだけ動いた。
選択遊びを始めよう
君の心はボクが決める
選択遊びを始めよう
君はもう、逃れられない。
市丸家に伝わる歌の歌詞だった。様々な解釈が成されているが、日番谷は何となく本当にこのままの意味なのだろうと思う。
『三ヶ月』。その言葉の重みは、日番谷自身が良く知っていた。変な男だ、と今更ながらに感じた。
「…雛森。」
「ふぇっ?!」
完全に思考がストップしていた雛森は、日番谷の唐突な呼びかけにびくんと肩を跳ねさせた。
「部屋に案内する。着いてこい。」
「あ は はい!」
慌てて雛森は日番谷に着いて三歩歩き、それからまた慌てて市丸の方を振り向いてぺこりと御辞儀をした。
慣れない靴で転けないように、それでも急いで日番谷の後を追う彼女の背中を見ながら、市丸はクスリと笑った。
「…何や 可愛らしい子やねぇ…な イヅル?」
そう隣に居た金髪の使用人に話を唐突に振ってみると、普段冷静に突っ込みを返す彼が珍しく動揺を見せた。
一気に頬は紅潮し、顔の前でブンブンと手を振り、早口に返事を返してきたのだ。
「そ そんなことはこれっっっっぽっちも思ってませんよ!」
そんな彼の反応に、思わず市丸は呆れた顔をした。
「…イヅル…一目惚れ?」
「いーえっ!だ、大体っ!冬獅郎様の婚約者様じゃないですか!!」
市丸は唐突に、ぷ、と噴出した。
「そんなに慌てんかてええよ。3ヶ月後には、答えが出るから」
ご機嫌に廊下を去って行く市丸を、彼…吉良は呆然と見送った。
(益々、楽しくなりそうだ)
新しい玩具は、彼にとって満足に足りるものであったようだった。
::後書::
大事なところですので、短いですが…。
…報われなくてごめんよイヅル!